| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-C-108  (Poster presentation)

サワガニの生活史を土壌動物と河川生態学の観点から見直す試み

*小林哲(Independent Benthos Labo Fukuoka), Miguel Vazquez-Archdale(Faculty of Fisheries, Kagoshima University)

サワガニの分布域は河川の上流部というだけでなく,山地に挟まれた渓流部(河川区分のセグメントM)に集中している.そのためこの種の分布を決める要因が単に貧栄養な河川上流という点よりも,森林を含む景観が重要である可能性が考えられる.なおサワガニは単に水生動物ではなく水陸両棲であり,しかも完全に森林の土壌動物としても活動している.そこで,サワガニの生活環に土壌動物として保水性に富む森林の土壌環境が必要な時期があるため,分布が決定されているという仮説を立てた.今回はまず,サワガニが生活史において森林土壌中と河川水中の2つの環境をいかに利用しているかを,福岡県久山町の2渓流域で調査した.あわせて河床環境のマイクロハビタット利用状況を明らかにするため,早瀬の転石,淵の転石,および川の周縁部に発達するリッターでコドラート採集を行った.
サワガニの繁殖活動および胚発生は個体群内で同調していた.1年近くかかって卵巣が発達した雌は6月下旬から7月初旬に産卵し,発生中の胚を抱いた雌が8月下旬にかけて森林土壌中で生活する.孵化が近づくと雌は水中に移動し,8月中旬以降9月初旬まで孵化した稚ガニ(甲幅4mm程度)を抱く個体が早瀬の転石下で過ごす.親から離れた稚ガニ(0歳)はある程度分散するものの,夏の終わりから秋は早瀬を中心に分布する.やがて12月以降はリッターに多くが移動し,約2歳になる翌々年7月頃(8-9mm)まで,ほとんどの個体は水中(おもにリッター)で生活する.10mm以上になると多くの個体が陸上へ移動し,春から秋にかけて岩の下など森林土壌中に巣孔を掘って生活するが,脱皮は水中で行われる.雄で15mm,雌で20mm前後に達し性成熟してくると,水中活動する個体が増えてくる.ただし冬期はほとんどの個体が水中で過ごす.このようにサワガニは生活環において2つの環境を行き来することが明らかになった.


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