| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-D-146  (Poster presentation)

DNAバーコードを用いた日本淡水産動物プランクトンの種判別

*牧野渡(東北大学), 丸岡奈津美(東北大学), 中川惠(国立環境研究所), 高村典子(国立環境研究所)

DNAバーコードは生物種同定のための有望なツールであるが、これを適用するためには、参照配列ライブラリーを事前に開発する必要がある。本研究では、霞ヶ浦における動物プランクトンモニタリングの高精度化を目指して、霞ヶ浦動物プランクトンDNAバーコードライブラリを開発した。具体的には、動物における一般的なバーコード領域であるミトコンドリアDNA・COI(mtCOI)領域の部分配列を、各動物プランクトン分類群について調べた。甲殻類では、橈脚類4種と枝角類15種、合計99個体から37個のハプロタイプが得られた。これらの配列を、GenBank上のmtCOI配列と相同性検索した結果、Daphnia ambiguaBosmina freyiのような(推定)移入種が、霞ヶ浦には分布していることが示された。輪虫類では、合計302個体から132個のハプロタイプが得られ、Automatic Barcode Gap Discovery(ABGD)アルゴリズムにより、43種に分離できた。このABGD分類は、属レベルでは形態に基づく分類と完全に一致し、種レベルでは形態に基づく分類よりも、より詳細であった。例えばBrachionus cf. calyciflorusは5つのABGD種に分けられ、異なるABGD種が異なる季節に出現する傾向が見られた。さらにPolyarthra属やSynchaeta属でも、ABGD種の季節遷移が観察された。これらの季節遷移は、従来の外部形態に基づくモニタリング手法では検出できないものであった。なお、mtCOI配列の種内変異を7%まで許容した場合、霞ヶ浦から得られた橈脚類4種のうち3種、枝角類15種のうち13種では、既にGenBank上に参照配列が登録されていたのに対し、輪虫類で参照配列が登録されていたのは、43種のうち17種のみであった。この結果は、DNAバーコードを用いた淡水産動物プランクトンの種判別を、グローバルスケールで実用化するためには、輪虫類の配列収集が特に重要であることを示している。


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