| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-G-229  (Poster presentation)

博物館標本を利用したチシマフジツボの過去と現在における遺伝的集団構造の比較

*頼末武史(北海道大学・厚岸臨海実験所), 善岡祐輝(沖縄工業高等専門学校), 井口亮(沖縄工業高等専門学校)

チシマフジツボは日本を含む東西太平洋及びベーリング海沿岸に分布する種であり、船舶を介した人為的な移動分散が生じている可能性がある。本研究では、人為影響によるチシマフジツボの外来遺伝子の移入が起きているかどうかを明らかにすることを目的とした。2013-2016年にかけて東北〜北海道の11地点でチシマフジツボ189個体を採集し、ミトコンドリアDNAのCOI領域470bpの塩基配列を決定した。また、1971年に網走で採集された博物館標本から17個体の塩基配列を取得した。さらに、GenBankからカリフォルニア〜アラスカ沿岸の11地点、154個体の塩基配列データを取得した。ハプロタイプネットワーク図から、本種には3つの種内系統群(クレード1-3)が含まれることが明らかになった。1971年の網走集団を含む日本の集団ではクレード3が優占しているのに対し、東太平洋集団ではクレード1、2が優占していた。また、AMOVA(Analysis of Molecular Variance)解析の結果から、日本と東太平洋の間には有意な遺伝的集団構造が存在することが明らかになった(p = 0.001)。これらの結果から、日本と東太平洋の集団間で人為影響による大規模な遺伝子流動は起きていないことが示唆された。しかし、Migrate-nによる移住率推定の結果、東太平洋集団から日本集団へ1世代あたり20個体程度の移住が存在することが予測された。そのため、北太平洋海流を利用し、アリューシャン列島、カムチャッカ周辺を飛び石分散することで、東太平洋から日本への小規模な遺伝子流動が存在する可能性が考えられる。しかし、推定された移住が人為的な影響であることも否定できない。今後は、博物館標本の解析を進めるとともに、核DNAマーカーを使った近過去の遺伝子流動を解析する必要がある。


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