| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-17  (Poster presentation)

ヒカゲスミレの生育条件について

*川俣蒼, 長谷川龍之介(新潟県立新津高校)

<はじめに> 新潟県の新津丘陵にある菩提寺山には、多くのスミレの仲間が広範囲に生息している。その中で、ヒカゲスミレは、わずかな個体群しか形成していない。新潟県全体では、太平洋側と比較すると分布が点在するのみで絶滅危惧種に指定されている。その原因は、ヒカゲスミレが新潟県の環境に適応していないからではないかと考え、生育地での観察と、他のスミレとヒカゲスミレとでフェノロジーなどの比較を行った。
<調査方法>菩提寺山で2015年4月~翌年の12月の期間、ヒカゲスミレの形態計測と環境調査を行った。また、ナガハシスミレとオオタチツボスミレ、ヒカゲスミレについて、照度の異なる環境下での栽培実験と室内での発芽実験を行い成長の様子を詳細に記録した。
<結果> 菩提寺山のヒカゲスミレは、4月中旬頃~11月頃まで地上部が見られる。開放花は4月下旬~5月中旬に形成し、8日間程度開花したが結実は確認できなかった。閉鎖花は4月下旬~10月頃まで形成し約2週間で成熟、果実1個当たり最大で63個の種子をつけた。また、根に多くの不定芽をつけることを確認した。栽培実験ではヒカゲスミレは、他の2つのスミレよりもサイズが小さく、果実数・種子数も少なかった。発芽実験では、ヒカゲスミレは種子形成後、数日で発芽した個体が確認できたが、他の2つのスミレは種子形成時から冬期間までの発芽は確認できなかった。
<考察> 菩提寺山のスミレの生育地では、冬期間に積雪が見られ、ナガハシスミレやオオタチツボスミレは、ロゼット葉を形成して、雪の下で越冬する。また、その年できた種子は発芽せず、種子のまま越冬している。一方、ヒカゲスミレは、夏に発芽した新個体も、無性繁殖で形成した個体もすべてが冬期間に地上部を失う。そして、これらの多くが越冬できず、かろうじて個体数を維持するのみで分布が拡大ができないのではないか。


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