| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) B01-09  (Oral presentation)

過去の分布拡大情報を利用した外来生物の分布拡大予測

*小池文人(横浜国立大学), 森本信生(農業食品産業技術総研)

ヒトの新興感染症やヒアリ,ツマアカスズメバチ,セアカゴケグモを含む外来生物の侵入は社会や自然に深刻な災いをもたらす.これらの外来生物が住宅の芝生などで普通にみられるようになると人々の日常の生活スタイルも変更を余儀なくされる.また都市居住者の増加により新興感染症の爆発的な分布拡大が起きやすい状況となっている.感染症のSIRモデルをはじめ,これまでの分布拡大モデルでは経路を特定し,物資輸送量など経路に関する詳細な情報を調査し,これを利用して移住確率などのパラメータを逆推定して,詳細な数理モデルを用いて予測していた.しかし経路が不明であることも多く,十分な情報が得られないため,分布拡大初期には予測が困難なケースも少なくなかった.そのため本研究では経路情報や個体群パラメータなどを一切利用せず,生物の分類群を超えて外来生物や感染症などに共通して適用可能な予測アプローチを開発した.地域的な早-遅関係を表す行列をもとに過去の分布拡大例から類似ケースを抽出して複数種のケースを合成し,得られた行列から将来の侵入時期の情報を復元している.外来害虫や2009年新型インフルエンザH1N1による検証では,初期の時点で利用可能な情報のみによりその後の各都道府県への分布拡大時期を予測できた.ケースによっては,最初の1県に侵入した時点で,その後の多くの都道府県への分布拡大の早-遅関係をかなり正確に予測できるものもあった.このアプローチは分布拡大初期などで情報不足のときには特に有効であり,プロトタイプは「外来生物の分布拡大予報」として現在試行的に運用し,ヒアリやセアカゴケグモ,ツマアカスズメバチ,2017年夏のO157腸管出血性大腸菌(VT2)特定遺伝子型,などの分布拡大予測を試験的に行っている.


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