| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-077  (Poster presentation)

カンタリジンを介した生物群集構造:林床と林内空間での時空動態

*堀内香穂, 橋本晃生, 林文男(首都大・院・理・生命)

 カンタリジンは,ツチハンミョウ科およびカミキリモドキ科の昆虫のみが生成する有毒の化合物である.これらの昆虫は,カンタリジンを天敵からの防御に利用するが,一部の節足動物はこれに強く誘引されることがある.本研究では,カンタリジンを含んだトラップを森林内の空中に設置し,これに誘引される飛翔性昆虫群集の種構成,季節消長,および林内における垂直分布を調査した.また,同所において,林床に設置したカンタリジンを含んだピットホールトラップによって得られた結果と比較することによって,地表面と林内空中で両者にどのような違いがあるのかを考察した.調査の結果,カンタリジンを含む空中トラップには3科6種の飛翔性昆虫が誘引された.アカハネムシ科では,ミゾアカハネムシとムナビロアカハネムシの2種が,春の短期間にオス成虫のみが誘引された.前者が高い所にも分布するのに対し,後者は林床近くに限って分布していた.アリモドキ科では,アカホソアリモドキのみが春の短期間に誘引され,その大部分がオスであった.本種は林床付近に分布する傾向があった.ヌカカ科では,モモグロヒラタヌカカ,キアシヒラタヌカカ,および未記載種を合わせて3種が誘引された.前2種は冬期を除く長期間にわたって出現し,未記載種は春に少数が得られた.誘引されたヌカカ類はほぼすべてがメスであり,林内の高所から林床まで広く分布していた.一方,一部の甲虫類,アリ類,ザトウムシ類は,地表に設置したピットホールトラップにしか誘引されなかった.つまり,カンタリジンに誘引される節足動物群集は,季節だけでなく,森林内の垂直構造に応じた分布パターンを示した.誘引される種の性比の偏りについては,それぞれの種によるカンタリジンの利用方法に依存すると考えられた.オスからメスへの婚姻贈呈では,オスが誘引され,吸血源の探索にカンタリジンを利用する場合にはメスのみが誘引された.


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