| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-116  (Poster presentation)

農作物の栄養供給サービスに着目したフードシェッドの都市間比較

*土屋一彬(東大・農), 大澤剛士(農環研), 小黒芳生(森林総研), 古川拓哉(森林総研)

農作物は人間の健康に不可欠なさまざまな栄養素を供給している。こうした栄養供給サービスは、他の生態系サービスや農地を取り巻く生物多様性と相互に関係しており、自然共生型の土地利用を実現していく上でも重要な要素である。他方で、近年、フードシステムのレジリエンス向上の手段として農作物の地域内流通に注目が集まる中で、そうした取り組みが健康改善や自然共生といった複数の社会的目標と整合的に展開することが望まれる。そこで本研究では、食事摂取基準を満たす栄養供給サービスの地理的範囲であるフードシェッドに着目した。人口規模や周辺土地利用が異なる4都市(東京23区、新潟市、大阪市、熊本市)を対象に、道路距離を指標とした空間的最適化により栄養素別のフードシェッドを評価することで、地域内流通と健康改善を両立させる空間スケールに関する基礎的知見を得ることを目的とした。その結果、1)大都市(東京23区、大阪市)では地方レベルで食事摂取基準を満たす地域内流通を実現することはほとんどの栄養素で難しいが、地方都市(新潟市、熊本市)ではいくつかの栄養素で実現可能性があること、2)栄養素ごとに食料摂取基準を満たす地域内流通の空間スケールは大きくことなり、特に健康改善のために摂取量増加が必要とされている微量栄養素では比較的小さな空間スケールで地域内流通の実現可能性が高いこと、の2点が確認された。これらの結果から、地域内流通と健康改善を両立するためには、地方都市圏において微量栄養素に着目することが有効である可能性が示唆された。今後は、自然共生の観点も含めた多目的最適化を評価する方法論の開発が課題である。


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