| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-122  (Poster presentation)

生態系サービスの教育的価値の可視化〜中学校の野外学習に影響を及ぼす自然的・社会的環境の解明〜

*柴田嶺(総合地球環境学研究所), 饗庭正寛(東北大学), 中静透(総合地球環境学研究所)

生態系の文化的サービスの価値評価の取り組みが近年盛んに行われており、特にレクリエーションを対象とした研究が増加している。しかし、教育的価値についてはこれまでほとんど評価は行われておらず、自然的・社会的環境との関係は明らかにされていない。本研究では全国の中学校の宿泊を伴う野外学習について、(1)各中学校の野外学習の実施の有無(2)各中学校から実施地までの移動コスト(3)野外学習実施地の分布、の3つを対象に自然的・社会的環境との関係を解析した。

全国の1655校へのアンケート調査結果を解析に用いた。全国を10kmメッシュに分割し、メッシュ毎に10km、30km、50km、110km、210kmの空間スケールで森林率、自然林率、自然公園率等の自然特性、人口密度、青少年施設の密度等の社会特性を算出した。解析は各中学校の野外学習の実施の有無、各中学校から実施地までの移動コスト、全国の各10kmメッシュが野外学習実施地に選ばれたか否かを目的変数とし、各学校の所在地、各学校の所在地と野外学習実施先、全国10kmメッシュの自然・社会特性をそれぞれ説明変数とした。解析は機械学習の一種である勾配ブースティングを用いた。

各中学校の野外学習の実施の有無は所在都道府県による影響が最も強かったが、同じ都道府県内においても周囲の自然林率が低いなど、より自然の少ない地域の中学校が実施していた。また、人口密度が高い都市部の中学校から、周囲を海に囲まれた環境や人口密度が低く自然林率の高い環境へ行く場合に、より多くの移動コストをかけていた。野外学習実施先として選ばれる場所は、青少年施設などの宿泊施設の密度や自然公園率が高かった。

本研究では、自然の豊かな地域は都市部の中学校の野外学習の場として教育的価値が高いが、青少年施設などの社会インフラが必要であるなど、自然的・社会的環境が複合的に教育的価値に影響を及ぼすことを明らかにした。


日本生態学会