| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S09-1  (Presentation in Symposium)

感染症と生態系機能:生物多様性および食物網を考慮にいれたプランクトン感染症動態

*鏡味麻衣子(東邦大学理学部), 瀬戸健介(東邦大学理学部), 三木健(国立台湾大学)

世界中で様々な感染症が蔓延拡大しており、地球温暖化との関連性も指摘されている。植物プランクトンのツボカビによる感染症動態にも、地球温暖化に伴う水温上昇や富栄養化による植物プランクトンの密度増加が影響する事が予想される。しかし、感染症が近年増加しているのか定かではなく、環境変動と感染症の動態との関係性は明らかではない。
感染症の動態には、物理化学的環境要因だけでなく生物間相互作用も影響する。生物多様性の高い群集ほど感染症が蔓延しにくい、いわゆる希釈効果(dilution effects)が明らかになりつつある。水1滴中に生息する植物プランクトンの多様性の高さを考えると、感染症の制御に希釈効果が働いている可能性はある。しかし、植物プランクトンのツボカビによる感染症は、必ずしも多様性の低い富栄養湖で蔓延するわけではなく、むしろ琵琶湖など多様性の高い中栄養湖のほうが寄生率が高くなるようにも見える。希釈効果は宿主特異性の高い病原生物に限ったもので、多様な宿主に寄生できる場合にはむしろ生物多様性は感染症の蔓延にプラスに働きうるため、感染症の動態は寄生者の宿主特異性も含めて解明する必要性がある。
また感染症の制御には病原生物の捕食者も重要である。植物プランクトンに寄生するツボカビは遊走子として水中を泳ぐが、それはミジンコなど動物プランクトンに捕食される。このツボカビ を介した植物プランクトンから動物プランクトンへの物質流Mycoloop(菌類連鎖)は、水圏の物質循環において重要な役割を担うが、感染症の制御のうえでも重要な役割を担っている可能性がある。本講演では、プランクトン感染症研究において未解決かつ重要な問題を紹介し、最先端の分子生物学的手法や培養実験とともに、数理モデルを併用することで、これらの問題をどのように解くことができるのか、展望を述べたい。


日本生態学会