| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W16-1  (Workshop)

趣旨説明 菌類らしさと生態学
Introduction: Fungal studies and Ecology

*松岡俊将(兵庫県大院・シミュ)
*Shunsuke MATSUOKA(Univ. Hyogo)

菌類は、従属栄養の真核生物であり、きのこ・かび・酵母の仲間がふくまれる。通常は菌糸と呼ばれる糸状の細胞で生活しており、人間の肉眼では捉えることができないが、繁殖器官として子実体(きのこ)を形成する種が存在する。菌類は、生物遺体から炭素を得る腐生菌、生きた生物から炭素を得る寄生菌や相利共生菌が含まれ、生態系の物質循環や動植物の成長・生存にも影響を及ぼしている。
菌類はこれまで「目に見えないしいても分からない微生物」であったが、DNA解析を始めとする様々な解析技術発展により、「いれば検出できる」存在になってきた。近年では、様々な分類群・機能群の菌類を対象に研究が展開されており、特に、動植物を中心に発展してきた生態学・進化研究の方法論や理論を菌類に適用することで、従来の微生物学や菌類学の枠組みを超えて、より一般的な生態学や進化学の中に菌類研究を位置づけることができるようになってきた。
一方、菌類の生物学的・生態的特徴は当然ながら動植物と異なる点が多数ある。例えば、菌類の種の記載や分類は子実体の形態に基づいて行われることが多いが、目立った子実体を形成しないグループが存在しうる。また、菌類は有性と無性の2つの生活環を持ち、核相が重相(n+n)となる種を多数含む。近年の研究の発展や蓄積を通じて、こうした菌類ならではの特徴が、従来の動植物を対象とした方法論や理論ではとらえられない生態・進化研究のユニークさや面白さ・困難さを生み出しうることが分かり始めてきた。
本集会では、菌類の多様性と進化、きのこをめぐる動物との相互作用、群集に関する研究を行っている演者に、自身の研究や分野の研究動向の紹介を行ってもらうことで、「菌類らしさ」を踏まえた研究の方向性、面白さ、困難さを共有することで、菌類らしさが生態学のアイデアにどう還元されうるのかを考えていきたい。


日本生態学会