| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W23-1  (Workshop)

カワウと人との軋轢と共存の歴史、そして現在の対応
History of conflicts and coexistence with the Great Cormorants and people, and current measures

*亀田佳代子(琵琶湖博), 加藤ななえ(バードリサーチ), 藤井弘章(近畿大), 牧野厚史(熊本大), 前迫ゆり(大産大)
*Kayoko O KAMEDA(LBM), Nanae KATO(Bird Research), Hiroaki FUJII(Kindai Univ.), Atsushi MAKINO(Kumamoto Univ.), Yuri MAESAKO(Osaka Sangyo Univ.)

 湖沼や河川でアユなどの魚を捕食し、水辺の森林で集団営巣するカワウは、現在各地で内水面漁業への食害や森林衰退を生じさせている。環境省はカワウ管理のガイドラインを作成し、3つの柱(魚や森にカワウを近づけない「被害防除」、カワウの数やコロニー・ねぐらの分布を管理する「個体群管理」、カワウに強い環境作りを行う「生息環境管理」)による順応的管理を、関係者間の情報共有と広域連携により行うという指針を打ち出している。現場レベルでは、まずカワウの生息と被害の状況を関係者間で共有し、目標を設定し、具体的な対策スケジュールを決め、役割分担を行って対応している。
 多くの地域では、「カワウは元々いなかったのでゼロにしたいが、抜本的方法がわからない」という意識がある。しかし、歴史的資料や聞き取り調査等により、100年以上にわたってカワウが生息した地域が国内に複数存在することがわかっている。愛知県の鵜の山では、江戸時代末期より地元の人々がカワウの排泄物を採取して肥料として利用してきた。ここでは、糞採取終了後、国の天然記念物に指定された「鵜の山鵜繁殖地」を観光資源として活用しようとする動きもあった。一方滋賀県の琵琶湖では、江戸時代末期から明治期にかけて竹生島にカワウやサギ類が生息し、樹木枯死による景観悪化等により、島の寺社や地元の人々が鳥を捕獲していた。竹生島では、昭和初期にもカワウやサギ類が増加し捕獲が行われた記録があり、過去にも鳥の数の増減により軋轢が生じ、対策が行われてきたことがわかる。
 カワウは日本の在来種であり、昔から個体数の増減や人間との様々な関わりが地域毎にあった。このことは、現在の対策の目標設定、地域特性に応じた具体的対応策の検討や体制作りなどに、大いに参考になる。長く人と付き合ってきた在来種に関わるグリーンインフラとそのアフターケアには、過去から学ぶという姿勢も必要ではないだろうか。


日本生態学会