| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W23-2  (Workshop)

Petulu heron villageから学ぶサギ類コロニーとの付き合い方
Petulu heron village teaches us how to deal with heronry problems

*益子美由希(国総研), 徳永幸彦(筑波大)
*Miyuki MASHIKO(NILIM), Yukihiko TOQUENAGA(Univ. of Tsukuba)

 インドネシア・バリ島の観光地から2kmほど離れたPetulu村には、民家脇の樹木に数万羽のサギ類が集まるコロニー(集団繁殖地)がある。ここでは1965年、社会混乱の中で起きた虐殺の負のエネルギーから村を清める儀式を行った直後にサギが飛来したと言われ、サギの群れは失われた数千人の魂であり村に繁栄をもたらす祝福のシンボルとされている。以来、地元の人々はサギの臭いや騒がしい鳴き声を厭わず、細々とではあるが観光資源としても活用している。
 日本にも、かつては3万羽のサギ類が集まったコロニーが埼玉県に存在し、江戸時代は紀州徳川家の御囲鷺として、戦後は特別天然記念物として保護されて250年存続したが、近隣の宅地化による餌場の減少や農薬の使用による餌生物の減少等により1972年に消滅した。以来、これほど大規模なコロニーは国内で見られず、大半が数十~数百羽、大きくても数千羽となっているが、コロニーが住宅地に隣接する樹林に形成されると、その悪臭等に対して住民から苦情が上がる軋轢が各地で生じている。対処として、当該樹林が社寺林等の地域の拠点となる緑地であっても伐採される例が散見され、当初の場所からの追い払いに成功しても、近隣の別の樹林での軋轢を誘発している場合もある。
 現代の日本において、Petulu村のようにサギ類コロニーの悪臭等も自然のこととして受け入れる共存を目指すことは現実的でない。一方、河川敷に形成されたコロニーが長年存続しカメラマン等を多く集める例もあることから、住宅地から一定程度離れた樹林でコロニーを存続させることは軋轢を減らす方向性となりうる。サギ類コロニーを追い払った場合・追い払わず存続させた場合にそれぞれどのような結果につながると見込まれるか、個々の現場に応じた具体的シナリオを提示可能にするための生態的・社会的情報を整理することが、アフターケアの第一歩と考えられる。


日本生態学会