| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W23-3  (Workshop)

ヒトとケモノの軋轢はどんな場所で生じるか?:イノシシとツキノワグマの事例から
Where do human-wildlife conflicts occur?: case studies in wild boars and Asiatic black bears

*斎藤昌幸(山形大)
*Masayuki U SAITO(Yamagata Univ.)

人間と野生哺乳類の間にはさまざまな軋轢が生じているが、人間の経済活動や生活空間と野生哺乳類の生息地の距離が近いことは軋轢が発生する要因のひとつである。その観点から考えると、グリーンインフラの推進は人間と野生哺乳類の軋轢を助長する可能性がある。
本講演ではまず、1)房総半島においてイノシシによる水稲被害が生じやすい場所と、2)山形県においてツキノワグマと人間が出会いやすい場所、を分析した2つの研究事例を紹介する。房総半島における水稲被害について、農業共済の支払い地点にもとづく被害地点と演者らが目視による調査によって調べた被害地点のいずれにおいても、林縁や河川から近い場所で水稲被害が生じやすい傾向が明らかになった。また、山形県におけるツキノワグマの目撃地点と環境要因を調べた事例では、林縁と河川に近い場所でより目撃されやすい傾向が示された。イノシシによる水稲被害では道路や集落は避ける傾向にあったが、ツキノワグマの目撃についてはそのような傾向は見られなかった。これら2つの事例では扱っている軋轢は異なるが、林縁や河川は人間の活動場所と野生哺乳類の生息地をつなぐ要因として影響していることが示唆された。
グリーンインフラの活用を推進すべき場面のひとつとして、分断された自然をつないで生態系ネットワークの形成に寄与することが期待されている。しかし、分断された自然をつなぐためにおこなう環境整備等は、その内容次第で都市や農村における人間の生活に対して負の影響を与える動物もつないでしまうことになるかもしれない。本講演では、上記の結果や他の先行研究をふまえ、グリーンインフラを推進する際に生じうる人間と野生哺乳類の軋轢に関する課題を整理するとともに、その対処法についても議論したい。


日本生態学会