| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-07  (Oral presentation)

生物多様性ながの県戦略は2030年にむけて何をめざすべきか
Future direction of the local biodiversity strategy of Nagano Prefecture towards 2030

*須賀丈(長野県環境保全研究所), 畑中健一郎(長野県環境保全研究所), 黒江美紗子(長野県環境保全研究所, 長野県庁)
*Takeshi SUKA(Nagano Env.Conserv.Res.Inst.), Kenichiro HATANAKA(Nagano Env.Conserv.Res.Inst.), Misako KUROE(Nagano Env.Conserv.Res.Inst., Nagano Prefectural Goverment)

生物多様性ながの県戦略は、2010年の愛知目標採択を受けて2012年に策定された長野県の生物多様性地域戦略である。ポスト愛知目標の採択が2021年に見込まれており、これを受けて同戦略も改定される方針となっている。現行の戦略下での取り組みを踏まえ、今後の重要課題を生物多様性の現状と対応する取り組みの両面から検討した。生物多様性の4つの危機は、長野県版レッドリスト掲載種の絶滅危惧要因の集計結果などから、すでに広範に顕在化しているか、または今後顕在化するおそれがあると考えられる。長野県内の生物多様性ホットスポットとして特に重要な地域は、白馬岳、八ヶ岳などの高山帯や霧ヶ峰の半自然草原などに分布する。これらの地域では、いずれもニホンジカの食害による植生被害が大きな脅威であり、また半自然草原では火入れ、草刈りなどの管理の維持が困難となっている。4つの危機への行政施策の枠組みでは、第2の危機への対応に大きな課題がある。この領域では、半自然草原や里山林の管理、ニホンジカ食害対策など、地域づくりを総合的に下支えする施策が求められる。しかし従来の自然保護対策では体系的にカバーされておらず、農林業分野と環境分野の連携にも課題がある。4つの危機に共通する根本原因にはグローバル化した資源利用による産業活動があり、それによる身近な自然との接点の喪失がある。したがって、ポストコロナの復興過程において分散型で持続可能な地域社会づくりをすすめる取り組みに、生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた取り組みを統合することが望まれる。保全活動の担い手の高齢化と次世代への継承も課題であり、学校現場でのESDを地域づくりにつなぐ取り組みが期待される。これらの取り組みは、現行の環境行政では効果的に統合されておらず、今後そうした統合を可能にする政策ビジョンやそれによる地域社会との広範な連携を創出しなければならない。


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