| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-137  (Poster presentation)

耕作放棄地に植樹したクヌギ林の林床群落組成と施業履歴の関係
The Relationship between Forest Management and Plant Community of Newly Created Sawtooth Oak Plantation in formerly abandoned farmland

*伊藤浩二(岐阜大学), 大野長一郎(大野製炭工場)
*Koji ITO(Gifu Univ.), Choichiro OHNO(Ohno Charcoal Factory)

<目的と方法>
  石川県珠洲市の奥能登丘陵の広葉樹二次林を開削してできた畑地(昭和40年代の国営開発事業地)が耕作放棄地となった場所で、著者の一人が植林管理している林齢の異なる12のクヌギ林分を対象に2020年10月に2×2m方形区を複数用いた植生調査を行った。そしてクロノシーケンス法により林床植生に対する植樹後の経過年数および萌芽更新管理の影響を評価した。当所ではほぼ8年おきにクヌギ伐採・萌芽を繰り返す管理を行なっていて、クヌギは高級木炭である茶の湯炭の材料として使われている。林分ごとの植物種組成の違いを明らかにするため、植生調査データを用いて序列化手法および指標種分析で評価したほか、出現種リストを元に植物機能群の構成比を比較することで、耕作放棄地での植林による生態系復元プロセスを推測した。
<結果と考察>
  植樹2-3年後の林分では耕地雑草群落および荒地雑草群落を特色づける一年生草本の出現が特徴的であった一方、植樹後8-9年を経過した林分ではクヌギ林冠がほぼ閉塞し、森林生および草原生の小型多年生草本や木本種実生が増加していた。また萌芽更新を1回経験した林分では一時的にイタドリ、フキが優占する草原的環境に変化したものの、ニシノホンモンジスゲ、ミツバツチグリ等の林冠閉鎖時に増加した種が引き続き共存しており、種多様性の大きな低下は認められなかった。萌芽更新後再び林冠閉鎖した林分では、イタドリやシシウドなど高茎草本群落を構成する種群が低被度で存続する一方、草原生種や鳥散布によると思われる木本種の増加により種多様度の高い林床植生が形成されていた。
  アンダーユース問題が深刻な里地里山において、放棄地管理のインセンティブが働く新たな里山システムの創造が必要とされているが、本研究成果は里山保全における新たなオプションとして、クヌギ植樹による生物多様性保全と生態系サービスの同時創出の可能性を示した。


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