| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S10-3  (Presentation in Symposium)

送粉者群集-植物群集間の相互作用が、植物群集の花形質組成に与える影響
Effects of plants-pollinators interactions on community assemblage of floral traits

*石井博(富山大学), 辻本翔平(東邦大学), 丑丸敦史(神戸大学), 工藤岳(北海道大学)
*Hiroshi S ISHII(Univ. of Toyama), Shohei G. TSUJIMOTO(Toho Univ.), Atsushi USHIMARU(Kobe Univ.), Gaku KUDO(Hokkaido Univ.)

 送粉者-植物間の相互作用は、生態系における主要な種間相互作用の一つである。しかし、送粉者群集と動物媒植物群集の間の群集規模の相互作用が、送粉者群集や植物群集の構造に及ぼす効果や、群集規模での進化の方向性に与える影響について調べた研究は少ない。本発表では、送粉者相の異なる6地域の植物群集の、花色組成や花形態の組成、および花色と花形態の相関関係を比較することで、送粉者-植物間の相互作用が、群集規模の現象にどう反映されているのかを議論したい。
 比較する6地域は、①モンゴルの半乾燥草原、②長野県菅平の半自然草原、③富山県立山の高山帯、④スウェーデン北極圏の亜高山帯、⑤スウェーデン北極圏の高山帯、⑥ニュージーランド南島の高山帯である、これらの地域で、季節を通じて、各植物種の花色(反射スペクトル)、花形態、および送粉者を、網羅的に記録した。
 その結果、どの地域でも、ハエ目の訪花が多い植物種は、ヒトの色覚で白や黄色の花が多く、花筒が短い(または花筒がない)花ばかりであったが、ハナバチ類やチョウ類の訪花が多い植物種には様々な花色を持つものが含まれており、花筒長も様々であった。そのため、ハナバチ類やチョウ類の割合が高い地域の植物群集ほど、花色や花筒長の多様性が高かった。また、ハエ目送粉者の割合が極端に高かったニュージーランドの高山帯を除く、すべての植物群集で、花筒長の長い植物種ほど、花色が青や紫である確率が高いという結果も得られた。
 これらの結果は、送粉者の分類群によって色覚や外部形態が異なるため、送粉者相の異なる植物群集間では、それに応じて花色組成や、花形態の多様性に違いが生じることを意味している。また、送粉者の色覚と外部形態が独立でないため、花色と花形態が相関進化していることもわかった。総じて、送粉者の群集の組成が、植物群集の性質や、花形質の進化の方向性に影響を及ぼしていることが示された。


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