| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W18-5  (Workshop)

川と海は本当に繋がっているか? ~機械学習によって得られた新しい視点~
Is the river and sea really connected? A new viewpoint obtained by machine Learning.

*伊藤真(京都大学)
*Makoto ITOH(Kyoto Univ.)

近年、人工知能技術の発展とともに大量のデータに機械学習を適用することでデータ間の秘められた関係を導き出す手法が様々な分野で用いられ、成果を上げている。しかしながら、これほど注目を浴びているにもかかわらず、生態学の多くの分野において機械学習を中心とした研究はあまり注目されていない。機械学習を用いるメリットの一つは、人間の印象や予測を超えた新しい示唆を与えることである。大量の多次元データを扱い、様々な個体間や種間の関係を対象として研究する生態学との潜在的な親和性は高く、今後大きく発展しうる分野の一つであると考えられる。その中でも発表者は環境DNAに着目して研究を行った。環境DNAは採水によって生物の在不在データが簡便に取得できる方法であり、対象とする種数や対象とする河川を増やすことで大量の多次元データが得られる。一方で、それらの関係を明らかにすることは人間の目では困難であり、機械学習を適用するメリットが非常に大きいと考えられる。そこで本研究では日本の31か所の河川の河口において採取された環境DNAの解析によって得られた様々な魚種の大量の在不在データと、各河川に関する水質や流域面積など様々なデータに対して機械学習を適用することにより、どのような河川情報が生物相と関連があるのか、また河川同士の違いやその関係性がどのようになっているかなどについての解析を行った。その結果、地理的距離と遺伝的距離の相関をもとに考えられているような一般的な認識とは異なり、生物相は地理的な距離よりも河川自体の違いと強く関連しており、海と川の繋がりが想像以上に強いであろうことが推測された。また、水質情報であるDOよりも流域面積の方が関連が強いなど、今後の新たな研究の下地になりうる視点が数多く発見され、生態学と機械学習の相性の良さが示唆された。


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