| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


シンポジウム S08-3  (Presentation in Symposium)

最終氷河期後の熱帯浅海域拡大とイシサンゴ種多様性の関係
The relationships between stony-coral diversity and expansion of tropical shallow-water areas since the Last Glacial Maxima

*楠本聞太郎(九州大学)
*Buntarou KUSUMOTO(Kyushu University)

海洋生物のマクロ生態学的パターンの形成には、現在の環境要因だけでなく、生息地の利用可能性や歴史効果が重要な役割を担っている。特に沿岸部では、気候変動に伴う海水面変動によって生息地の面積が変動を繰り返してきた。発表者の研究グループは、全球スケールの海底地形地図と地球物理シミュレータによって、最終氷河期(2万6千年前)以降の海岸線位置を500年間隔で特定し、任意の水深帯の面積を定量する数値モデルを整備した。本講演では、最終氷河期の浅海域(水深40 m未満)の変動が、現在のイシサンゴ目(Scleractinia)多様性の地理的パターン形成に与えた影響を分析した結果を紹介する。イシサンゴの種多様性は、出現記録に基づく種多様性推定、およびエキスパートレンジマップの重ね合わせによる種数カウントの二通りで推定した。前者はサンプリング不完全性によるバイアスを補正した、“公平に”比較可能な実現群集、後者は、ある場所に生息しうる種を全て含んだ局所種プールと解釈することができる。海域ごとに見ると、孤立した島嶼を含む海域(太平洋中央部付近やインド洋)や、閉鎖した海域(紅海)では、現在または過去の生息地面積とイシサンゴ多様性の間に正の相関が見られた。環境ドライバ分析の結果では、出現記録に基づく種多様性の地理的パターンは、浅海域面積よりも、太陽放射照度、塩分濃度、リン酸塩濃度など、現在の環境によってよく説明された。一方、レンジマップ・ベースの種多様性では、現在環境に加え、最終氷河期後の海面上昇期(1万4千年前頃)の生息地面積やその拡大速度の説明力が高かった。これらの結果は、現場で観測可能な実現群集の種多様性パターンの形成には、環境フィルター効果が強く作用している一方で、局所種プールの形成には、浅海域面積の歴史的変化が重要な役割を果たしたことを示唆している。


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