| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-107  (Poster presentation)

隠れマルコフモデルによる花成ステージ遷移の分析【E】
Analysis of floral transition by the hidden Markov model【E】

*西尾治幾(滋賀大学, 京都大学), 工藤洋(京都大学)
*Haruki NISHIO(Shiga Univ., Kyoto Univ.), Hiroshi KUDOH(Kyoto Univ.)

アブラナ科植物では、越冬中に低温を経験することによって、栄養生長から繁殖への発生的な移行(花成ステージ遷移)が起きる。一方、発芽時期は季節的に一定ではないため、特に多年草において越冬個体の生育段階は集団内で不均一であり、その後の花成ステージ遷移にも影響を及ぼすことが予想される。これまで、冬を模倣した長期低温処理(春化処理:Vernalization(V))後の花成と生育段階の関係について、モデル植物である一年草のシロイヌナズナを用いた分子遺伝学的研究が数多く行われてきた。一方、陸上植物の大多数を占める多年草における知見は限られている。
 本研究では、シロイヌナズナ属の多年草であるハクサンハタザオを対象として、生育段階による春化応答性の違いを調べた。成熟個体、実生、種子に9週間の低温処理を施し、その後暖温に戻す3処理区(Mature V、Seedling V、Seed V)、および一貫して暖温で生育させる対照区(Without V)において、花成ステージの進行(栄養成長、抽台、開花、栄養成長への逆転換)および花成制御遺伝子(VIN3FLCFT)の発現を調べた。
 マルコフモデルを用いて花成ステージの遷移確率をベイズ推定したところ、各花成ステージへの遷移確率は、Mature Vが他の条件より有意に高く、Seed VとWithout Vでは差がなかった。また、花成制御遺伝子の発現量の差異が花成ステージの遷移確率の差異に影響していることがわかった。次に、隠れマルコフモデルを用いて、複数の転写状態からの各花成ステージの出力確率を求めた。これらの結果より、シロイヌナズナ属の多年草における、生育段階による春化応答性の違いおよび花成ステージの遷移と遺伝子発現の関係の一端が明らかとなった。今後、生育段階に依存的な花成制御遺伝子の発現を調べ、花成と生育段階の関係の全体像を明らかにする。


日本生態学会