| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-110  (Poster presentation)

キク科ミミコウモリにおける倍数化の生態的意義
Ecological significance of polyploidization in Parasenecio kamtschaticus (Asteraceae)

*塩谷悠希, 工藤岳(北海道大学)
*Yuki SHIOTANI, Gaku KUDO(Hokkaido Univ.)

 染色体の倍数化は多くの植物分類群で生じており、種分化の原動力であると考えられている。倍数化の進化的利点として、生態特性の変化や分布域拡大、自家和合性の獲得などが挙げられているが、倍数化集団の成立・維持機構については不明な点が多い。本研究では、異なる倍数性タイプをもつキク科林床植物のミミコウモリ(Parasenecio kamtschaticus)を用いて、2倍体集団と倍数化集団の生態・繁殖特性を比較し、倍数化の適応的意義を検討した。
 調査地として2倍体ミミコウモリ、4倍体ミミコウモリ、無性生殖を行う4倍体変種のコモチミミコウモリの3タイプについて、合計10集団を選んだ。各集団で葉面積、草丈、花数を計測し、5集団で受粉実験(他家受粉、袋がけ、自家受粉処理)を行った。また、2倍体集団の自生地である苫小牧研究林(落葉広葉樹林内)と北海道大学構内、4倍体集団の自生地である名寄研究林(針葉樹林内)で各倍数体の相互移植実験を行い、形態計測を2年間行った。さらに、圃場で育てた2倍体と4倍体個体間で交雑実験を行った。
 自生地での形態測定の結果、4倍体集団は2倍体やコモチ集団に比べて葉面積と草丈が大きい傾向があった。花生産のサイズ依存性は、4倍体集団とコモチ集団は2倍体集団より小さかったが、葉生産は4倍体集団で大きかった。移植実験の結果から、全実験区で4倍体は2倍体より大きな葉を形成し、草丈も苫小牧以外では高いことが示された。花生産のサイズ依存性については実験区間で一貫した傾向はなかったが、葉生産はどの実験区でも4倍体で大きかった。4倍体は被陰環境での競争に有利な形質をもつことが示唆され、針葉樹林下での生育が促された可能性がある。受粉実験の結果、全集団で自家和合性は低く、倍数体間の和合性(果実生産)は低いことが示された。以上の結果より、倍数体集団間の排他的な分布は、非適応な3倍体形成ではなくニッチ選好性により維持されている可能性が示された。


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