| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


シンポジウム S05-2  (Presentation in Symposium)

ウキクサ植物:花成制御多様化の古くて新しいモデル【B】
Duckweed (Lemnoideae): an old and emerging model system to study diversification of flowering regulation【B】

*村中智明(鹿児島大・農)
*Tomoaki MURANAKA(Kagoshima Univ. Agri.)

ウキクサは5属37種の浮遊性水草であり、葉と茎が融合した葉状体と根(不定根)からなる。小型化にともない根・維管束が簡易化し、とくに両者が消失したミジンコウキクサ属は最小の顕花植物として知られる。特異な形態からウキクサ科が認められてきたが、胚発生の特徴からサトイモ科に近縁とされていた。さらに、近年の分子系統解析からサトイモ科に含まれることが支持され、APGではサトイモ科ウキクサ亜科とされた。ウキクサ植物のゲノムサイズは比較的小さく(150Mbp~2Gbp)、5属の代表種でゲノム解読が完了しており、分子的な解析も可能となっている。本発表では、とくにアオウキクサ属を対象とした、花成制御の分子生態学の最近の進捗を紹介する。
ウキクサ植物はクローン増殖を基本とするが、花による種子繁殖も行う。とくに、アオウキクサ属には長日植物と短日植物が存在し、光周性の逆転を理解する上で重要である。さらに、短日植物のアオウキクサは日本において一年生の水田雑草であるが、限界日長に緯度クラインを示すため、花成時期の多様化のモデルとしても有用である。日本各地の水田からアオウキクサ72系統を集めた結果、限界日長は各生息地の気候条件に加え、水田で栽培されるイネ品種に応じて異なる湛水時期にも適応的であった。RNA-seq解析によりFT遺伝子の発現タイミングが限界日長決定に重要であることが示唆された。また、概日リズム周期と限界日長に負の相関が見られ、概日時計の周期変化がFT遺伝子の発現タイミングに影響することが示唆された。一方で長日植物のイボウキクサでのRNA-seq解析では、長日で誘導されるFT遺伝子を同定した。今後はFT遺伝子の系統解析や発現制御の比較から光周性逆転に迫りたい。FT遺伝子は花成のマスターレギュレーターとして植物に広く保存されており、サトイモ科での比較解析でも重要なターゲットになると考えられる。


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