| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


シンポジウム S06-1  (Presentation in Symposium)

ナナホシキンカメムシの精巧なコミュニケーションにおける振動シグナルの機能
Function of vibrational signals in elaborate communication in jewel bug

*向井裕美(森林総合研究所)
*Hiromi MUKAI(FFPRI)

動物の精巧な求愛ディスプレイは,ときに複数のシグナルの組合せや階層的な順序付けにより,高度な雄雌間コミュニケーションを成立させる.複雑なディスプレイが発達した種ではシグナルの提示様式やそれらが担う情報の意味が多様化する可能性が高く,動物コミュニケーションにおける新たなシグナル利用様式を解明するための理想的な研究モデルとなり得る.
ナナホシキンカメムシ(Calliphara excellens)は,メタリックグリーンの光輝く美しい体色を持つことから宝石カメムシ(jewel bug)とも呼ばれる.本種は繁殖期になると,植物体上で雄と雌のペアを形成し,体を揺らす,頭部を低くしてお辞儀をする,植物表面を叩く,などの奇妙な行動を繰り返し行い,交尾に至る.これらの行動を詳細に解析した結果,本種の雄は,各ディスプレイにおいて体を小刻みに振動させるなどして,いくつかの振動パターンを生成していることが明らかになった.雌は雄の振動パターンに応じて可塑的に行動を変えることから,本種の求愛では振動シグナルが重要な役割を担っていると考えられた.さらに,本種の儀式的なディスプレイの繰り返しのなかでは,雄の体色や特徴的なモーション,前胸背板の特殊な微細構造の存在など,振動以外にも,視覚,化学感覚,触覚,などの感覚に作用する複数のシグナルを,単独もしくは組合せて提示されていると推定された.本講演では,ナナホシキンカメムシの求愛コミュニケーションにおける多様な振動シグナルとその機能を紹介するとともに,振動シグナルとその他シグナルとの併用による情報の意味づけの変化についても議論する.


日本生態学会