| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


シンポジウム S06-2  (Presentation in Symposium)

カエデチョウ科鳥類の羽装模様の進化と視覚選好の関係
Plumage pattern evolution and visual preference in Estrildid finches

*水野歩, 相馬雅代(北海道大学)
*Ayumi MIZUNO, Masayo SOMA(Hokkaido Univ.)

信号とは,同種または異種間の情報伝達を担う行動や形態を指す.優れた色覚を持つ鳥類では,しばしば歌や体の動きだけでなく見た目が信号としての機能を果たす.実際,多種多様な羽装の色や模様が存在する.そのためダーウィンの時代から多くの研究者が鳥類の装飾的羽装の機能と進化の解明に力を注いできたが,色ばかりが注目され,模様は驚くほど研究例が少ない.性淘汰の代名詞,クジャクの雄の上尾筒にある目玉模様でさえ,未だその機能や進化を巡る議論が続いている.
  羽装模様でも特に水玉模様,複数の丸い色パッチが規則正しく配置された模様は,様々な分類群にみられる.鳥類では,水玉模様は主に種内信号として機能するとされるが,その進化的起源は不明である.私たちは羽装の水玉模様という信号形質の起源を明らかにすべく,感覚バイアス仮説に着目した.この仮説は,雌の自然淘汰から派生した感覚特性や選好といった感覚バイアスが,雄の信号形質の起源にかかわると予測する.多くの魚類研究でこの仮説は支持され,いくつかの種の雄では,性的信号として体表に餌と似た模様を持ち,雌の採餌由来の反応性を刺激しているとされる.本仮説は,雌雄に共通する感覚特性と雌雄相互的に機能する信号が存在する場合,雌雄双方の持つ信号形質の進化をも説明しうるだろう.
  カエデチョウ科鳥類の多くは,雌雄とも羽装に信号として機能する白い水玉模様を持ち,それと似た視覚的特徴を持つ餌を食べる.私たちは,本科の羽装の水玉模様と食性の進化関係や,共通祖先形質としての白い粒状の視覚刺激への採餌と関連したバイアス(視覚選好)の存在を検討してきた.結果,本科の食性と羽装模様は進化的に関連していること,本科は白い水玉模様に視覚選好を持つこと,そしてそれが採餌由来の祖先形質である可能性が示された.これは,カエデチョウ科において食性に起因する視覚選好と,雌雄にある羽装模様の進化関係を示唆する.


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