| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


シンポジウム S06-5  (Presentation in Symposium)

ハエと蚊の聴覚コミュニケーション
Acoustic communication in fruit flies and mosquitoes

*上川内あづさ(名古屋大学)
*Azusa KAMIKOUCHI(Nagoya Univ.)

配偶行動は、動物界において普遍的にみられる現象であり、取り巻く環境の中で同種の異性を認識することが最初の段階となる。この認識には様々な感覚が動員されるが、多くの種で「聴覚」を介したコミュニケーションが重要な役割を果たす。では、同種の異性が発する特徴的な音は、どのようにして受け手側で認識されるのだろうか?
 私たちはこれまで、キイロショウジョウバエを聴覚系研究の新規モデルとして確立し、特性解明を進めてきた。ショウジョウバエは種に固有な音パターンを持つ「求愛歌」と呼ばれる羽音を用いて配偶行動を行う。では、この音パターンはハエの脳でどのように認識されるのだろうか?また、その認識機構は、経験によって変化するのだろうか?私たちはこれらの課題に取り組み、音パターン認識の一旦を担う神経回路機構を解明するとともに、経験により歌の識別能力が向上することを発見した。興味深いことに、これらの機構はともに抑制性神経伝達物質であるGABAを介した抑制性の回路により制御されていた。音パターンの認識を担う脳内情報処理の様々な段階で、GABAによる多様な制御が行われている可能性がある。
 さらに私たちは、ショウジョウバエと同じく配偶行動の際に聴覚を用いる、ネッタイシマカの配偶行動にも着目した。夕暮れ時、オスは、「蚊柱」と呼ばれる集団の中で飛行しながらメスの接近を待つ。蚊柱にメスが近づくと、オスは他のオス達の羽音の中からメスの羽音を聞き分けて接近し、求愛を行う。最近私たちは、このオスが示す走音性(Phonotaxis)を可能にするメカニズムの一端として、オス聴覚器の周波数特性が、外界温度により変化することを見出した。メスの羽音自体も、その周波数は温度変化を示す。オスは、その聴覚器の特性を温度に応じて制御することで、温度変化によるメスの羽音変化への追随を可能とする優れた聴覚能力を獲得している可能性がある。


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