| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-12

遺伝子組換え作物の生物多様性影響評価、5年間の実態と今後の課題

白井洋一(農環研)

2003年11月、遺伝子組換え生物の野外環境での利用と国境を越えた移動に関する管理手続きなどを定めた「生物多様性条約カルタヘナ議定書」を日本は批准し、2004年2月に議定書を担保する国内法「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)が施行された。この法律に基づき、組換え植物の野外栽培開始前に、組換え植物の開発者は「生物多様性影響評価書」を国に提出し、生物多様性(生態系)への影響の有無や程度が審査されることになった。審査対象となる野外栽培は、期間・場所を限定した小規模の隔離圃場試験と期間・場所を限定しない一般栽培(商業栽培)に分けられる。いずれも、主に(1)導入遺伝子発現の安定性、(2)競合における優位性(駆逐、拡散)、(3)有害物質の産生性、(4)野生植物との交雑性の観点から審査される。

この5年間で、海外のバイテク企業は食料原料・飼料用としての輸入目的のため、隔離圃場試験を申請し、海外で得られた多くの野外試験データと併せて、トウモロコシ、ダイズ、セイヨウナタネ、ワタなどで多くの系統(品種)の商業利用が承認されてきた。一方、国内の大学や研究所が申請する隔離圃場試験は、温室(閉鎖系)栽培から初めて野外試験に進み、目的とする導入形質の発現を確認し有望系統を選抜する「機能検証」の段階であり、その申請数はまだ少ない。

この5年間の審査結果はほぼ妥当であると考えるが、一般市民目線で見るとわかりにくい点もある。機能検証段階(野外試験のスタート)にある国内研究機関の隔離圃場試験と商業利用申請のための最終段階として行うバイテク企業の試験栽培の明確な区別化、およびスタック系統(組換え作物同士を通常育種法で掛け合わせた品種)の多様性影響評価法について私見を述べる。


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