| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) I2-04

コウヤマキ若齢林における物質生産と光合成−ヒノキとの比較−

*小林 元(信大農・AFC),吉田 藍(JA小松)

コウヤマキは岩尾根のような他種が入りにくい場所に自生するが,その成長特性については不明な点が多い。本研究ではコウヤマキの成長特性を明らかにすることを目的に,人工林におけるコウヤマキの物質生産と光合速度をヒノキと比較した。調査の結果,コウヤマキの個体サイズ(樹高と胸高直径)はヒノキと比べ小さい値を示したが,地上部現存量(幹と枝および葉の重量)の大きさは変わらなかった。一方,コウヤマキの地上部のC/F比は,ヒノキと比べて低い値を示した。このことからコウヤマキの個体サイズがヒノキと比べて小さいのは,主にC/F比が低いためといえる。つまり,コウヤマキにおいては光合成産物を同化器官である葉により多く分配するため,支持器官である幹や枝への分配が相対的に低下し,このことがコウヤマキの個体サイズの低下につながったといえる。コウヤマキの面積あたりの光合成速度はヒノキと変わらなかったが,光合成効率の指標となる乾重あたりの光合成速度と窒素利用効率はヒノキより低かった。この結果は,コウヤマキの葉がヒノキと同じ光合成速度を達成するには,ヒノキと比べてより多くの同化産物と土壌栄養を要求することを意味しており,コウヤマキは光合成を行う上でヒノキより生産効率の低い葉を有するといえる。このように個葉レベルでの生産効率が低いことに加え,個体レベルの物質分配においても同化器官への分配比が高く,支持器官への分配比が相対的に低い特徴はコウヤマキの異種間との生存競争において不利に働くと考えられる。例えば,隣接個体との個体間競争を考えた場合,生産効率の高い葉を有し,同化産物を幹や枝等の支持器官へ多く分配する戦略は,光資源獲得の上で有利に作用するであろう。コウヤマキが他種との競争を避け,他の植物が進入出来ない岩尾根などに自生する理由として,このような光合成生産と物質分配特性の非効率さが挙げられよう。


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