| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T08-2

河川敷利用形態の変化と樹林化の進行

大石哲也(土木研究所)

研究対象とした小貝川(茨城県筑西市)は,関東河川の代表的な氾濫景観を有する河川ある.本河川で,地形図(1890年)や空中写真(1947年,1961年,1974年,1990年)を元に,河川における過去100年間の地被状態の変化を定量的に把握することを目的に研究を行った.検証方法は,まず,地形図,空中写真をGISを用いて幾何補正を行ったうえで,地被状態を7カテゴリー(水域,自然裸地,人工裸地,耕作地,草地,樹林地,その他)に分類し,データをGISへ格納した.次に,1947年以降の空中写真を図化機により,立体視し表層高の変化を見た.なお,本検討では,代表的な4箇所の表層高の変化について,読み取り区域約1haを対象としている.各地被状態を定量的に解析した結果,1970年代までは,樹林面積,表層高ともに明確な変化は見られなかった.しかしながら,1990年代に入ると,1970年代と比較し,樹林域,樹林高が平均で約3倍となっていた.また,樹林化への変化パターンは,1)草本からの遷移,2)薪炭林の放棄による拡大・高木化,3)耕作地放棄からの遷移が見られた.本研究から,河川敷の樹林化は,河川流域での生活形式の変化との関係性が深いことが定量的データから示された.昨今,川の本来の姿や健全性が議論されることが多くなった.それらの議論の中には,河川管理の結果,環境が劣化しているので,これまで行っていた管理を低減し,河川のダイナミクスを復元することで河川環境の修復を目指すという考え方が強く働いているケースが多く見られる.むろん,それらは,基本的かつ重要な考え方であるが,我が国の河川は,特に陸域環境は生活に伴う人為的撹乱に大きく影響を受けてきており,このような撹乱が減少した現在,河川環境を動的平衡状態に維持するには,河川のダイナミクス復元に加えて,過去の人為的撹乱に相当する撹乱を計画的に加える必要があると考えられる.


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