| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) H2-11

ヌートリア対策の経緯と課題‐捕獲およびモニタリングの結果から

森生枝(岡山県自然保護センター)

ヌートリアMyocastor coypusは,南米原産の半水生齧歯類であり,これまで植物の根や地下茎などを主食とすることが知られている.ヌートリアは,岡山県自然保護センターの野外施設(100ha)においても,開所した1991年から,池を中心にして定着していることが確認されている。

開所以降の観察によれば,当初マコモやミクリが特に食害を受けたことから,ヌートリアは水辺や水中に生育する植物の根茎を主な食糧としていたと考えられる.その後,ヒシやドブガイの生育・生息にも影響を与えるようになった.ヌートリアはヒシの種子を1994年秋期の池干しを契機に食物として利用するようになり,池面(1.4ha)の半分近くを被っていたヒシは激減したが,2003年に実施したヌートリア捕獲後はしだいに元の状態にまで回復してきた.また,最近では水位が低下した池岸で底生動物ドブガイが相当数捕食されていることも明らかとなるなど,ヌートリアは植物の根茎だけでなく種子や動物をも食糧としていることが明らかになった.

捕獲については,03年から09年までに,巣穴が集中する池(周囲530m,面積1.4ha)を中心として,箱わなを用いて74頭のヌートリアを除去した.この間の捕獲努力量は2182わな日であった。06年(捕獲開始後4年目)には,03年の捕獲開始以降初めて幼獣の捕獲数がゼロとなった。それに伴い,マコモなど多年生植物の生育面積が増加し,捕獲開始後5年目にはドブガイ個体数にも回復の兆しが現れた。しかし,その後の捕獲努力量の減少に伴い再びヌートリア個体数は増加に転じた。

04年から09年までに捕獲されたメス成獣19頭のうち少なくとも12頭(63%)に目視可能な胎児が見られ,かつ妊娠個体は1年を通して確認されたことから,ヌートリアの高い繁殖能力がうかがえた。当面,捕獲努力量の確保が最も重要であると考えられた。


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