| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-055

絶滅危惧種の垂下状コケ植物イトゴケの北限

白崎 仁*(新潟薬大・生物)

イトゴケNeodicradiella pendula(ハイヒモゴケ科)は、日本南西部、台湾、中国、東南アジア、北アメリカ南部、メキシコなどに分布する南方系の蘚類である。日本では、絶滅危惧種の一つに指定されており(埼玉県 II類;神奈川県 I類;愛知県 IA類;大分県 IB;京都府 絶滅寸前種)、その様相は、高木の樹幹や枝に垂れ下がる亜熱帯に多い生活型である。北限は、埼玉県飯能市である。2009年1月に、多雪地域の新潟県加茂市(北緯37度39分、東経139度4分、海抜80m)でイトゴケが発見された。生育地は人里に近い丘陵のスギの密林である。そこは、比較的狭い谷間で、小川を挟んでその両側にあり、直射日光はあまり当たらない。地表から高さ約1.5m〜6m上のスギの枝に多数のイトゴケが生育する。川沿いに約1km上流まで広い範囲のスギやヤマグワなどの枝に着生している。胞子体の発達過程を観察すると、造卵器の受精は8月、胞子体の伸長と肥大は9〜10月、減数分裂は11月上旬、胞子体の成熟は11月中旬である。翌年1月には胞子を散布しており、正常な生活史を完結している。加茂市の平均積雪は1月の83cmが最高だが、最多年には162cmに達する。しかし、最近の積雪は比較的少なく、その着生位置は、ほとんど160cm以上で、雪に埋没しない。最低気温は2月で、-2.2℃まで低下する。暖かさの指数は、101である。冬季の降水量(12月から3月の合計値)は1081mmである。地球温暖化が進行しているので、この多雪地域の里山の環境に、絶滅危惧種のイトゴケが拡大していくのか、大変興味深い。


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