| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-056

タイ半島部におけるAcrostichum2種の種生態

*皆川礼子,中村武久(東京農大),松本定(科博・植物)

マングローブに生育しているAcrostichumは3種が知られているが,そのうちAcrostichum aureumA. speciosumの2種がタイに分布している.半島部アンダマン海側のマングローブ林内ではAcrostichum2種の生育環境が異なることが知られ,両種のすみ分けの一因としてアナジャコの泥塚の影響が示唆されている(皆川ほか2009).今回はアナジャコの生息していないマングローブ林において両種の生育がどのように異なるか調査し,Acrostichum2種の種生態について検討した.

調査は2009年8月,タイ国半島部パンガ県パンジー川流域(アンダマン海側)とナコンシタマラート県カノム川流域(タイ湾側)で行なった.両種の出現位置を地図上に記録し,周辺の植生を調査した.出現位置の潮汐による浸水状況,土壌塩分濃度,土壌pHを測定した.それら今回の調査結果に2000年および2009年4月に同地点で調査したデータも加えて検討した.

A. aureumは,パンジー川(アナジャコ生息域)ではExcoecaris agallocha優占林の林縁や林床に単独の株が点在していたのに対し,カノム川(アナジャコ非生息域)では川沿いの林縁に10から20株が団塊状に群生していた.両地域で局所的に群落が形成されていたが生育環境にアナジャコの泥塚の影響は見られなかった.一方,A. speciosumは,パンジー川では,Xylocarpus granatum混生林などのアナジャコの泥塚周辺に生育していたのに対し,カノム川ではX. granatum優占林の林縁から林内の広範囲に生育していた.アナジャコの生息する林内では,泥塚が地盤の高低差を作り,林内の生育分布を制限したと考えられた.

皆川礼子ほか(2009):第19回日本熱帯生態学会年次大会講演要旨集p.32


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