| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-057

チマキザサ節の分布を規定する気候要因の解明と温暖化の影響評価への応用

*津山幾太郎(森林総研),松井哲哉(森林総研・北海道),堀川真弘(TOYOTA・バイオ緑化),中尾勝洋(森林総研),小南裕志(森林総研・関西),田中信行(森林総研)

日本の多雪地域の林床優占種であるチマキザサ節について,分布を規定する気候要因とその閾値を明らかにした.さらに,地球温暖化がチマキザサ節の分布に与える影響を評価するため,現在と2081-2100年におけるチマキザサ節の分布確率を日本全域を対象に1km解像度で予測し,潜在生育域の変化を推定した.

チマキザサ節の分布と気候との関係解析には,分類樹モデルを用いた.説明変数は,暖かさの指数(WI),最寒月最低気温(TMC),最大積雪水量(MSW),夏期降水量(PRS),冬期降雨量(WR)とし,現在の気候には3次メッシュ気候値(1953-1982年平均)を,将来の気候には気候統一シナリオ第2版(2081-2100年平均)を用いた.目的変数には,植物社会学ルルベデータベースから抽出したチマキザサ節の在・不在データを用いた.モデルの精度検証は,ROC解析によって行った.また,ROC解析から予測精度が最高となる分布確率を求め,これを閾値として,潜在生育域を「適域」(生育に適した地域)と「辺縁域」(生育は可能だがあまり適さない地域)に区分した.

分類樹モデルによる解析の結果,チマキザサ節の分布規定要因としての重要度は,MSWが最も大きく,以下,WI,PRS,WR,TMCの順であった.チマキザサ節は,MSW≧68.9mmか,MSW<68.9mm,かつWI<92.6を満たす地域で生育可能であり,特にMSW≧131.6mm,かつWI≧31.6を満たす気候条件が生育に適することがわかった.気候統一シナリオ第2版において,チマキザサ節の適域は,MSWの減少によって現在の53.3%に減少すると予測された.また,WIの増加により,現在の辺縁域の69.9%が生育不可能な地域になると予測された.


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