| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-058

倒木上に更新したトドマツとエゾマツ実生・稚樹の生残に及ぼす効果〜倒木の質、母樹の効果〜

*後藤 晋,岡田桃子,石塚 航,木村 恵,練 春蘭,梶 幹男(東大院・農)

北海道の主要針葉樹であるトドマツとエゾマツは倒木に依存した更新様式をもち、実生・稚樹の生存には倒木の質が重要なことが知られている。東京大学北海道演習林岩魚沢保存林に設定された5haプロット内の倒木112本を2005年に踏査し、倒木の樹種、コケ被度、コケ厚さ、倒木硬度を調べるとともに、倒木上に定着したトドマツ437本とエゾマツ542本の実生・稚樹の2009年までの生残過程を1年ごとに調べた。2009年時点での生存率はトドマツで55.8%、エゾマツで47.6%であり、実生・稚樹の年齢や倒木の質によって生残率に違いが見られた。一般化線形混合モデルを用いて、2009年時点の生存/死亡を応答変数、実生・稚樹の年齢、最近接成木個体までの距離、倒木の硬さ、コケ被度、コケの厚さを説明変数の固定効果、倒木の樹種をランダム効果として、解析はAICを基準としたステップワイズ変数選択を行った。その結果、トドマツでは年齢が高く、最近接成木個体までの距離が小さく、倒木硬度が大きいほど生存率が高かった。一方エゾマツでは、年齢が高く、コケ被度が高いほど実生・稚樹の生存率が高かった。さらにトドマツでは遺伝マーカーを用いて母樹を明らかにした305個体の実生・稚樹について、母樹による影響を加えたモデルを構築し、同様の解析を行った。その結果、「母樹」が及ぼすランダム効果は有効にAICを低くしたが、「母樹までの距離」が及ぼす固定効果は有効にAICを低くしなかった。これらより、母樹による生残率の差があるものの、母樹からの距離依存的な死亡は生じていないことが示唆された。以上のように、倒木上に定着したトドマツとエゾマツ実生・稚樹の生存には、倒木の硬さやコケといった質が関わるが、樹種によって影響は異なること、トドマツでは次代の生存力が母樹間で異なる可能性が示された。


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