| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-060

標高傾度に沿ったハクサンハタザオとイブキハタザオの葉の解剖学的・生化学的特性

*永野聡一郎(東北大・院・生命科学),森長真一(東大・院・総合文化),彦坂幸毅(東北大・院・生命科学)

高標高地に生育する植物には、厳しい生育環境への適応に貢献していると考えられる様々な表現型が見られる。我々は、モデル植物シロイヌナズナと同属の野生種ハクサンハタザオ(ハクサン:低標高型)と本種から近畿地方の伊吹山周辺で分化した生態型のイブキハタザオ(イブキ:高標高型)を対象に、植物の山地適応をゲノムレベルから表現型レベルまで包括的に明らかにすることを目標として研究を行っている。昨年度我々は、イブキが生育環境の厳しさや物理的ストレスに対して強い物質分配様式と形態をもつことを示した。とくに葉面積あたりの葉重(LMA)は標高傾度に沿って増加する傾向が見られたが、同じ標高でも生態型間の応答が異なることが明らかとなり、ハクサンとイブキの遺伝的な違いが示唆された。そこで本研究は、葉の組織の解剖学的特性と生化学的特性に着目し、これらの標高傾度に沿った変異を明らかにすることを目的とした。現地にてハクサンとイブキのロゼット葉を樹脂包埋後、横断切片を作成し、表皮組織、柵状組織、海綿状組織の厚さを測定した。また、クロロフィルの定量を行ない、各形質の標高に対する応答を解析した。

葉の厚さは、標高傾度に沿って柵状組織と葉肉組織が共に拡大することによって有意に厚くなっていたが、標高への生態型間の応答に違いは見られなかった。表皮組織の厚さは標高に応じた変化が見られなかった。また、葉面積あたりの総クロロフィル量はハクサンよりもイブキのほうが有意に高く、標高に対して生態型間の応答が異なっていた。イブキは厚い葉に多くの光合成器官を備えていたと考えられ、生態型間の生理的な機能の違いが示唆された。


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