| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-068

標茶町天然記念物ベニバナヤマシャクヤクの生態

標茶町教育委員会標茶町郷土館 *辻 ねむ(標茶町郷土館)

ベニバナヤマシャクヤクPaeonia obovataは、北海道から九州まで分布しているボタン科の多年草である。近年自生地の開発や盗掘による絶滅が心配され、環境省のレッドリストおよび北海道レッドデータブックでは、絶滅危惧種に指定されている。

標茶町教育委員会では、平成17年に本種を標茶町の天然記念物として指定し、郷土館を中心に、地元高校、町内外のボランティア、役場の協力を得て、本種の保護を目的とした調査を行なっている。5年間の調査結果をここに報告する。

今回の調査では、本種の1)生育環境の解明、2)生態の解明(出現個体数、個体サイズ、稔実率、個体群の動態)、3)町内の分布の把握、の3点を中心に行なった。

結果は、1)対象とした個体群は、湿性林から乾いた山林まで連続して分布しており、様々な冷温帯落葉広葉樹が混生した林に生育していた。またすべての調査区においてオオクマザサが出現しており、ほとんどの調査区において被度、群度ともに優占していた。2)対象とした個体群は、個体数、個体サイズ、果実数、種子数ともに年々増加傾向にあった。ただし果実数や種子数が増加しても、種子の稔実率は毎年ほぼ一定だった。また5年間の個体群のサイズ構造の推移結果より、推移確率行列を用いた個体群動態モデルを作成したところ、現在のサイズ構造が定常状態に近いことが示され、個体数が増加していく可能性が示唆された。3)標茶町には過去を含めて23ヶ所の生育地の情報があった。そのうち現在も生育しているのは8ヶ所であり、そのすべてが町有地、道有地、国有地といった非民有地だった。


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