| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-076

オオシラビソ孤立林分周辺における土壌表層の花粉組成

*池田重人,岡本透,志知幸治,若松伸彦

花粉分析の結果を解釈するうえで花粉の飛散範囲を推定することは重要であるが、実際に飛散距離を測定することは非常に困難である。それでも、これまでの花粉分析研究の結果から、カラマツ属やモミ属などでは花粉飛散距離が小さいと経験的に言われてきた。演者らが研究対象としている奥羽山脈栗駒山のオオシラビソ林は、周辺約100km以内には分布地がない孤立した小林分であり、モミ属花粉の飛散範囲を確認するには最適の場所と考える。ここでは、栗駒山の秣岳オオシラビソ小林分の変遷を明らかにする目的の一環として、周辺植生の表層試料の花粉組成の分析を行い、これまでに同地域で得られている花粉分析結果について再検討した。

分析試料は秣岳オオシラビソ林の周囲のおおむね1km以内の範囲にある各種の植生下において、土壌表層の堆積有機物層から採取した。採取試料は通常の花粉分析と同様に薬品処理を行い、総花粉数が1000個程度になるまで計数した。約20地点の表層試料を分析した結果、オオシラビソ林分にごく近い地点を除いて、モミ属の花粉はほとんど検出されなかった。このことは、モミ属花粉の飛散距離がきわめて小さいことを示しており、経験的にいわれてきた特徴と一致するものであった。したがって、以前の分析で秣岳オオシラビソ林と隣接する湿原において、モミ属花粉が完新世中期以降に低率ながら連続して検出されたのは、遠方飛来花粉によるのではなく、当時からオオシラビソが定着していたことを示すものといえる。


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