| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-080

サイズ構造のある個体群の空間構造の創発について トドマツ個体群を対象として

*中河嘉明(筑波大院), 横沢正幸(農環研), 原登志彦(北海道大)

同種同齢植物個体群における個体の空間分布は、林冠閉鎖の直後は集中分布もしくはランダム分布であるが、時間発展につれて一様分布に変化することが知られている。とくに大きなサイズクラスの個体ほど一様分布化が早い。従来、このような個体の空間分布の時間変化は、大きい個体では近隣個体への個体間競争による負の影響が大きく効率的に近隣個体が間引かれているためと考えられていた。しかし、それを定量的に示した研究は少ない。そこで本研究は、その従来の仮説を検証し、個体のスケールから個体群のスケールの現象である個体の空間分布がどのように引き起こされるのかを解明することを目的とした。

同種同齢の林分(トドマツ人工林)を対象として数理モデルを構築し、さらに個体間競争の定量化を行ない以下の解析をした。

まず、従来の仮説を検証した結果必ずしも仮説は支持されなかった。つまり、時間経過につれて、より小さい個体が大きい個体のより近くに集中して生き残っていた。

では、なぜそのような個体の空間パターンが形成されるのか。そこで二次元平面上において、一個体が受ける個体間競争による負の影響の強さの分布を求めた。その結果、大きな個体の周囲に、負の影響の強さの小さい場所(Competition-induced shelter 以下CiS)が存在していることが分かった。そのため、大きい個体の近くでも小さな個体が生き残ることができ、結果的に集中分布することが明らかになった。

これらの結果から、小さいサイズクラスの個体の空間分布の一様化が遅れる現象は、より小さいサイズクラスの個体ほど大きい個体の直近に集中して残るためだと分かった。また、より小さい個体が大きな個体の直近に集中分布しているのは、大きな個体の配置によって、CiSが形成されるためと解釈できた。


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