| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-097

東京湾におけるアマモ種子分散過程の推定:漂流ハガキと流動モデルによるアプローチ

*渡辺健太郎(千葉大・自然科学), Tanuspong POKAVANICH(東工大・情報理工), 八木宏(水産総合研), 灘岡和夫(東工大・情報理工), 仲岡雅裕(北大・厚岸臨海)

海中の顕花植物である海草の草原、海草藻場は様々な生態系機能を有する重要な沿岸生態系の一部である。東京湾において海草藻場の優占種であるアマモには、地下茎を伸ばす無性生殖と、種子をつくる有性生殖の2つの繁殖方法がある。後者の場合、種子単独での分散距離は数メートルであるが、種子を保持したままの花枝がちぎれて流れ藻となり、海流によって長距離を移動すると言われている。しかしその過程を直接明らかにするのは困難である。そこで我々は、漂流ハガキ実験および海水流動モデルを用いた数値シミュレーションによりアマモ種子の分散過程の解明を試みた。

漂流ハガキ実験は、浮力を調節したハガキを海に散布し、それがどこに漂着したかを拾得者に記入・郵送してもらうという方法で行った。ハガキの散布は、花枝の流出量が最も多い5月から6月にかけて、湾内6ヶ所で行った。その結果、ハガキの移動方向には風が影響していることが明らかになった。また多くのハガキは東京湾内で発見されたが、湾外へ流出したものの多くは相模湾沿岸で見つかったことから、東京湾と相模湾の個体群との間にある程度頻繁な遺伝子交流があることが示唆された。

数値シミュレーションは2006、2007年における実際の気象データをもとに、海流による種子の分散過程と、種子の花枝からの脱落過程をシミュレーションすることで、湾内5ヶ所の海草藻場から種子がどこへ分散しているか推測した。その結果、アマモの種子は風の影響を強く受ける吹送流によって東京湾全体に広がること、特に東京湾最大の富津干潟の海草藻場から他の海草藻場へ多くの種子が供給されている可能性が示された。


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