| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-187

植物の繁殖に及ぼす二親性近親交配の影響:推定方法と適用事例

*石田清(弘前大・農), 平山貴美子(京都府大・院・生命環境)

他殖性の植物は劣性有害遺伝子の頻度が高く、大きな近交弱勢が現れやすい。血縁個体が集中分布している集団では、兄弟交配などの二親性近親交配が生じる可能性があり、他殖子孫の適応度を大きく減少させているかもしれない。他殖子孫の適応度に及ぼす二親性近親交配の影響は、子孫の近交係数の時間的変化などに基づいて検討されてきたが、生活史初期段階(受精直後から実生に至るまでのステージ)の二親性近親交配についてはそうした方法が適用できないため、研究事例は少ない。そこで、(1)種子と繁殖個体の遺伝分析(親の近交係数及び自殖率に関わる遺伝パラメータ)に基づいて他殖子孫の近交係数を推定するとともに、(2)交配実験(自家受粉と他家受粉)で子孫の近交係数と生存率との関係を推定することにより、生活史初期段階の他殖子孫の相対適応度(RF=[他殖子孫の生存率]/[任意交配子孫の生存率])を推定する方法を開発した。この方法で求めた相対適応度は過大推定値になるが、自殖子孫に現れる近交弱勢(近交弱勢成分δ:δ=1−[自殖子孫の値]/[任意交配子孫の値])が通常の範囲にある集団ならば推定誤差は小さい。絶滅危惧種シデコブシを対象に、この方法を用いて生活史初期段階の他殖子孫の相対適応度(RF)、近交荷重(自殖率×δ)、二親性近交荷重([1−自殖率]×[1−RF])を推定した。岐阜県土岐市の集団を分析した結果、他殖子孫の相対適応度は0.89であり、近交荷重と二親性近交荷重はそれぞれ0.33と0.07であった。この結果は、近親交配によって集団全体の繁殖量(実生数)が40%減少していること、そしてその減少部分の18%が二親性近親交配に起因していることを示している。この集団は最近隣個体間の親縁係数が0.21と大きいため、孤立小集団となって交配距離が短くなると二親性近交荷重がさらに大きくなる可能性がある。


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