| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-229

表流水が枯渇する河川におけるヒナイシドジョウの個体群維持機構:避難場所としての河床間隙域の重要性

*川西亮太, 井上幹生, 三宅洋(愛媛大・院・理工)

撹乱時における避難場所(refugia)の存在は、生物種が個体群を維持するために重要な役割を果たす。河川では、表流水の枯渇や洪水などの撹乱時における水生動物の避難場所として河床間隙域が注目されているが(hyporheic refugia)、これが魚類の避難場所として有効に機能することを示す例はこれまでのところ報告されていない。ヒナイシドジョウは小型の河川性魚類で、愛媛県重信川中流域では表流水が頻繁に枯渇する区間(間欠流区間)でも恒常的に生息が確認されている。本研究では、この区間における本種個体群の維持にhyporheic refugiaが重要な役割を持つのではないかと考え、本種が河床間隙域に避難することで表流水の枯渇を回避しているかどうか検討した。

間欠流区間(約2.2km)に14〜17の調査地点を設定し、表流水の枯渇と回復が繰り返される夏季に本種生息密度の時空間的変化を調査した。枯渇地点において、表流水の回復後、すぐに本種の出現が確認された。しかし、回復後の時空間的な出現パターンから考えると、これらが表流水の枯渇しない永続流区間からの再移入によるものとは考えにくかった。そこで、本種が表流水の回復直後に高密度で出現した淵に、イラストマータグで標識した個体を放流した。この淵が完全に枯渇し、その後、再び表流水が回復した時に標識個体が得られるかを調査した結果、1匹の標識個体が得られた。また、完全に表流水が枯渇した時に、河床内部の間隙から採水サンプリングを行ったところ、2匹のヒナイシドジョウが得られた。以上の結果は、表流水の枯渇時に河床間隙域が避難場所として有効に機能していることを示すものであり、間欠流区間における本種個体群の維持にhyporheic refugia が重要な役割を果たしていることを強く示唆している。


日本生態学会