| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-325

水辺の生き物の分布に関する指標:福井県の市民参加型調査データを用いた検討

*今井淳一(東大・農),角谷拓(国環研),水谷瑞希(福井県自然保護センター),平山亜希子(福井県自然保護センター),松村俊幸(福井県自然環境課),鷲谷いづみ(東大・農)

農業を中心とした人間活動により多様な土地利用がモザイク状に維持される里地里山は、特定の環境にのみ依存する生物だけでなく複数タイプの環境を必要とする生物を含む多様な生物に好適な生息場所を与えてきた。特に両生類や水棲昆虫などの水辺の生物は、水田や灌漑用のため池や水路などの水域を利用する一方で、樹林地や草地など水域以外の環境を利用する種も多く、土地利用のモザイク性がその分布を規定する重要な要因の一つであると考えられる。

本研究では、福井県において実施された市民参加型調査の結果で得られたデータの中からカメ類,カエル類,淡水魚類,水生昆虫類に属する計21種の在不在情報を用い、里地里山における土地利用のモザイク性とこれら水辺の生物の分布との関係を分析した。土地利用のモザイク性は、複数の空間スケール(2km四方,6km四方,10km四方)の内部に含まれる土地利用の多様度を、シンプソンの多様度を用いて指数化した。その上で、個別の種の応答だけでなく対象分類群ごとの応答も把握するため、階層ベイズ法を用いて解析を行った。

解析の結果、土地利用のモザイク性は分析に供した多くの分類群の出現に対して、正の効果を及ぼしていた。空間スケールに関してモデル選択を行ったところ、指標を算出する単位としては6km四方が最適なスケールであることが分かった。

これらの結果により、数kmスケールでの土地利用のモザイク性は里地里山の水辺の生物の分布ポテンシャルの有効な指標となることが示唆された。また本研究で用いたモザイク性指数は、里地里山における生物の生息適地予測や土地利用変化が生物多様性に及ぼす影響の予測などに利用しうると考えられる。


日本生態学会