| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-339

Several Small な人工水路と干潟多様性保全―東京湾岸ベントス群集調査の結果から―

*柚原剛(東邦大院・理),多留聖典(東邦大・東京湾生態系研究セ),風呂田利夫(東邦大・理)

東京湾では埋め立てにより干潟面積が減少し,特に消失が著しい塩性湿地に生息するベントス種の多くで,絶滅および絶滅が危惧されている.ほとんどの干潟ベントス種は,プランクトン幼生分散を通したメタ個体群を形成しているとされ,湾内の幼生着底場が増加すれば安定的な個体群維持が期待される.旧海岸線と埋立地の境界部に造成された人工水路は小規模だが塩性湿地が非意図的に形成されており,その着底場として期待される.演者らは本大会等で人工水路に希少ベントス種が豊富に存在したことを報告した.今回は人工水路に加え,東京湾岸の塩性湿地干潟のベントス群集構造を調べた.その結果から希少干潟ベントス種の保全のために,東京湾内での最適な生息場の配置を検討した.

2008~2010年に東京湾の湾口部から湾奥部にかけて,塩性湿地を伴う干潟や人工水路15カ所を調査した.希少種の確認に重点を絞り,目視・掘り返し調査を行い,ベントス各種の在・不在データを得た.また人工水路以外の干潟は,東邦大学主催の市民参加型の干潟調査結果を使用した.ベントス群集構造把握のため,得られたデータより類似度を求め,多変量解析を行った.

多変量解析の結果から,主として「大規模河口干潟と湾奥部干潟の群集型」と「湾東岸の人工水路群の群集型」の群集型が形成された.この違いに寄与したベントス種がウミニナ,ヒメアシハラガニ,アリアケモドキであった.いずれも東京湾の希少種で,人工水路群で確認された.また湾西岸横浜の小規模な人工的な塩性湿地でも,ヨシダカワザンショウやウモレベンケイガニが確認された.このことから人工水路内の小規模な塩性湿地が,ベントス各種のメタ個体群維持に貢献していると示唆された.塩性湿地が極度に少ない千葉市,川崎市,横浜市沿岸に小規模でも数多く配置することで,希少性の高いベントス種の安定的な個体群維持が期待される.


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