| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-345

四国山地剣山系稜線部におけるニホンジカの影響によるササ草原の衰退とヤマヌカボ群落の拡大

*石川愼吾,中嶋宏心,森本梓紗(高知大・理),坂本彰(三嶺の森をまもるみんなの会)

四国山地の稜線部には広くササ原が成立している。三嶺山域を含む剣山系にはミヤマクマザサ群落の発達が著しいが,数年前からニホンジカの過剰な採食圧によって稜線部のササ原が広い面積にわたって枯死しはじめ,その面積は急激に拡大している。ササ群落が大面積にわたって枯死した場所では土壌侵食が進行し,山腹の崩壊を誘発する危険性が高いので,土壌侵食の防止と生物多様性の保全を目的として30カ所以上に防鹿柵が設置された。柵内の植生は順調に回復している一方で,ミヤマクマザサは群落が完全に枯死して1年後に設置した柵内では復活したものの,2年後に設置した柵内では新生した稈はほとんど確認されなかった。ミヤマクマザサ群落の回復を目指すのであれば,稈が生き残っているか,遅くとも枯死後1年以内に柵を設置する必要があるといえる。ミヤマクマザサ群落が消失した場所では土壌の侵食が進行する一方で,ヤマヌカボの優占する群落が急速に拡大していた。ヤマヌカボの種子は特別な散布器官を持たず表層土壌と一緒に流されるので,傾斜の緩やかな場所で群落の発達が良好であったが,急傾斜地でも蘚苔類の植被率が高いなど,種子の流されにくい場所では実生の定着率が高かった。ヤマヌカボの種子には一次休眠性がなく,低温域が20℃以下になれば高い発芽率を示した。種子は7月上旬から8月にかけて散布されるが,高温で発芽しにくいために現地(標高約1700m)では8月下旬から9月にかけて発芽するものが多く,これは発芽実験の結果と一致していた。分蘖速度がはやく,定着1年後にはマット状の群落を形成し,土壌流失を防ぐ効果が高かった。今後,ササ枯死後の土壌侵食を未然に防止するために,ヤマヌカボを用いた早期緑化の具体的方策を検討する必要がある。


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