| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) D1-03 (Oral presentation)

花の大きさ がマルハナバチの採餌経路に与える影響: 人工花を用いた閉鎖系実験

*辻本翔平,坂井明日香,竹田彩,石井博(富大・理)

*辻本翔平、坂井明日香、竹田彩、石井博(富山大学・理)

いくつかのポリネーター種では、採餌の際に特定の経路(トラップライン)を利用する傾向が報告されている。

ポリネーターが特定の採餌経路を利用する理由としては、これまでに「競争者が存在する状況で資源を占有する為」「資源の多い花を覚えることで採餌効率を上げる為」等の仮説が提唱されている。これらの仮説に加え、我々は「花の位置を覚える事が、採餌効率を上げる上で有効な為」という仮説を立てた。ハチは視直径5°以下の物体(直径2cmであれば23cm以上離れた物体)を発見することが困難であると言われている(Giurfa et al 1996)。従って、花を見つけにくい状況では、花の位置を覚え、特定の経路を使うことで花を探すコストが節約できるのではないだろうか。

この仮説を検証する為、直径が2、4、6cmの球形の人工花を用い、屋内実験を行った。まず、いずれかの大きさの人工花32個を4×2mのケージに配置し、そこへクロマルハナバチの働きバチを1匹ずつ、1000回訪花するまで自由に採餌させた。その上で、「32個の花」と「992通りの花間移動経路」それぞれの利用頻度の偏り、及び花間の移動効率が、採餌経験と共にどのように変化するのかを、花サイズ間で比較した。

その結果、花が小さい時ほど、経験とともに「特定の花」を利用する傾向が強くなることが確認された。ただし、どのサイズの花で実験をしても、経験と共に「特定の経路」を利用する傾向は強くなった。花間の移動効率は、経験が浅い間は花の小さい時の方が長かったが、経験を積んだ後ではその差がなくなった。

以上の事から、花が小さく見つけにくい時には、花の位置を記憶するメリットが大きい事が示唆された。しかし、どのサイズの大きさの花で実験をしても「特定の経路」を利用する傾向は強まった事から、花を見つけやすい状況でもマルハナバチはトラップラインを形成する事も示された。


日本生態学会