| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) B2-19 (Oral presentation)

小流域における水生昆虫群集の種多様性維持に果たす湧水環境の重要性

*渡辺のぞみ, 根岸淳二郎(北大・環境), 布川雅典, 中村太士(北大・農)

生物多様性の脅威となる人為的インパクトから生物群集・生態系を効率的に保全するには、生態系の現況把握および生態系における生物多様性の維持機構を解明することが不可欠である。流域内には、地表流や土壌浅層部からの水が卓越する『非湧水河川』と、扇状地末端部で地表面に出現し深層地下水が卓越する『湧水河川』が混在している。水文過程の異なる2つのタイプの河川は、水生生物にとって物理的に異なる生息場環境を有し、流域内における生物多様性の維持に貢献している可能性がある。本研究では、両河川タイプの物理化学特性および水生昆虫の群集構造から、流域スケールにおける種多様性維持に果たす湧水環境の重要性を明らかにすることを目的とした。

北海道十勝川支流音更川流域(流域面積:740 km2、流路延長:94km)において、各河川タイプ(湧水・非湧水)を7河川ずつ選定した後、28の調査区間(上下流区間/河川)を設定した。各調査区間において2011/12~2012/12の期間中、複数回にわたり物理環境変量・水質の計測、水生昆虫の採取および河川縦横断測量を行った。また、表層水を採取し、水の安定同位体比分析を行った。各河川の物理化学特性と水生昆虫の群集構造を明らかにするため、物理化学変量に対して主成分分析を、水生昆虫の分類群数(在・不在データ)に対して非多次元尺度法を行った。さらに、流域における湧水・非湧水河川の存在比の違いによる種多様性の変化を明らかにするため、実測データをもとにシミュレーション解析を行った。

流域内の種多様性は、水生生物にとっての生息場環境が物理的に異なる河川群が存在することによって維持されており、河川タイプの違いによる生息場の物理化学環境特性はその流域の地形や水文過程と強く関係していることが示唆された。


日本生態学会