| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-418 (Poster presentation)

浮遊アオサによる極端な優占現象は干潟の生態系機能を低下させているのか?

*矢部徹,有田康一,玉置雅紀,中村雅子,林誠二(国環研),石井裕一(都環研),芝原達也(UMS)

本研究では谷津干潟におけるアオサ類のグリーンタイドを通じて,侵入種による優占現象にともなう一次生産者の変化が干潟の生態系機能に及ぼす影響を検討することを目的としている。かつては一連の前浜干潟で,現在でも底質の鉱物組成や供給される海水組成がほぼ等しい千葉県の谷津干潟と三番瀬干潟を対象として研究を開始した。特に目視では困難とされるアオサ類の種組成を明らかにし,谷津干潟におけるグリーンタイドの主要な形成種は侵入種ミナミアオサであることを明らかにした。種別の生物量の季節変化を明らかにし,グリーンタイド通年発生地である谷津干潟では11月に最大値を,9月に最小値を示した。対照地とした三番瀬では近年大規模なグリーンタイドの発生は見られず,そこでは在来種のアナアオサが優占していた。この結果,谷津干潟における一次生産者はほぼ通年で底生微細藻類からアオサ類へと変化していたことが明らかとなった。

谷津干潟における底質中の底生生物種数は夏期に最少となり,三番瀬よりも少なくなった。一方で堆積しているアオサ類の隙間に生息する種を含めると夏期でも両干潟に差は無く,アオサ類が多くなる冬期には谷津干潟で約2倍の種数が出現した。個体数も夏期で約3倍,冬期で約25倍に増加した。侵入種ミナミアオサが優占することで干潟の生態系機能のうち生息場供給機能については少なくとも量的に正の効果を示した。

底質環境については,間隙水中の栄養塩濃度等に両干潟間の差が確認されただけでなく,グリーンタイドが衰退する時期に増加する項目も複数確認され,グリーンタイドの底質環境への影響が示唆された。これらの結果より,侵入種ミナミアオサによる優占現象であるグリーンタイドが干潟の生態系機能に及ぼす多面的な影響についてさらに研究を進めることが必要であることが示された。


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