| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-192 (Poster presentation)

奥入瀬渓流域におけるスギの更新動態とその要因

*田中大貴(弘前大・農生), 石田清(弘前大・農生)

近年、青森県の東部に位置する奥入瀬渓流域において、植栽したスギが逸出して渓畔林の植生を攪乱していることが問題となっている。本研究では奥入瀬渓流域での野外調査と遺伝分析に基づいて当該地域におけるスギの個体群構造と更新動態、及びスギと主要落葉広葉樹種の成長特性を明らかにした。これらの調査結果に基づいて、当該地域におけるスギ個体群の現状及び今後の動態を考察した。遺伝分析と年輪解析の結果、調査区内のスギは伏条萌芽と種子繁殖で天然更新していることが明らかとなった。また、当該地域のスギ個体群が分布範囲を10m拡大するには、伏条更新で約434年、種子繁殖で約86~97年かかると推定した。これらの結果から、奥入瀬渓流域のスギの分布範囲の拡大速度は種子の散布距離と繁殖(開花・結実)開始齢によって決まると考えられる。さらに、ジェネットの構造を分析した結果、ジェネットは被陰の有無で成長様式を大きく変えることが示唆された。野外調査の結果、調査区のスギは成木・幼樹両方ともに川岸に近い場所に多く分布する傾向が認められた。大半のスギ幼樹は散乱光透過率が8~16%の場所で生育していた。スギ幼樹は同所的に生育しているブナ・イタヤカエデ幼樹に比べて当年伸長量・相対成長率が小さかった。今後、スギはこれらの樹種に被陰されて成長が抑制される可能性がある。しかしながら、スギがこれらの種に被陰された場合でも、川岸のような明るい光環境下であれば成長を続ける可能性がある。現在の環境が維持された場合、奥入瀬渓流域のスギは天然更新を継続し、渓流沿いに点在するスギ個体群を中心として分布を拡大していくと考えられる。


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