| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-029 (Poster presentation)

ニホンジカの体サイズの地理的変異とその生態学的要因:ベルグマンの法則を再考する

*久保 麦野(東大・総博),高槻 成紀(麻布大・獣医)

内温動物では、緯度が高い(寒冷地)ほど体重が重いというベルクマンの法則は、生物の形質の地理的変異パターンを説明する法則としては特に有名である。ベルクマンの法則を検討する際には、主として種内個体群間で、体重と緯度、あるいは環境要因との相関を調べるのが通例である。したがって地理的分布が広い種の方が材料として好適であるが、こうした種は種内に系統構造が存在し、観察される体重のクラインに系統関係が影響を与えている可能性があるが、こうした点はこれまでほとんど検討されてこなかった。

日本列島に生息するニホンジカは、種内系統関係を考慮しつつ、体サイズと緯度や環境要因との関係を調べる上で適している。分子系統学的研究からは、ニホンジカは北海道から近畿地方までの本州からなる北系統と、中国地方以西と九州からなる南系統の2つに分かれることが指摘されてきた。オスジカの体重は、北海道の120㎏から屋久島の40㎏程度と変異が大きくベルクマンの法則に合致するとされてきたが、これに系統的違いが存在する可能性が考えられる。本研究では、日本全国31個体群を対象に、体重および頭骨最大長のデータを収集し、体サイズに影響する環境要因として年平均気温、年降水量、寒さの指数等を記録し、系統関係を考慮したうえで、体サイズに影響する環境要因の探索を行った。

解析の結果、緯度―体サイズ回帰直線は系統間で有意に異ならず、体サイズは種内系統ではなく現在の環境勾配に強く従って変異していると考えられた。また、頭骨長と年平均気温が関連するのみならず、頭骨長で相対化した体重と寒さの指数が強く関連していた。このことは寒冷地のシカは体が大きいだけでなく、相対的に体重も重い(肉付きが良い)ことを示唆しており、体熱保持に加え、厳冬期に備えた脂肪蓄積も寒冷地域での大型化に関係することを示唆している。


日本生態学会