| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T14-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

東アジア島嶼の植物多様性の地理的パターン:種の系統情報と機能特性を用いたパターン形成機構の検証

塩野貴之

本研究では、東アジア島嶼の樹木種多様性パターンの形成機構を検証した。種の地理分布、化石の地理分布、種の系統、種の機能特性のデータを組み合わせ、以下4つの側面から、多様性の創出と維持に関係するプロセスを分析した。

1)種数と固有種数の地理的パターンに関係する環境要因の検証:

種数のパターンは、気温、気候の歴史的安定性、火砕流や沖積堆積地の有無で説明され、固有種数のパターンは、大陸からの距離、標高などの地理的要因で主に説明された。

2)歴史的環境変動に伴う絶滅効果の検証:

属レベルの化石分布と現生の種多様性分布の比較から、第三紀以降の島嶼化と寒冷化に伴い、系統的に古い属が選択的に絶滅した。

3)群集の系統構造を指標とした系統的フィルタリング効果の検証:

寒冷な高緯度ほど、系統的に若く派生的な種で群集が構成され、系統的多様性も低いことから、種の系統的ニッチに関係した気候フィルタ効果が強く作用していることが示された。

4)群集の機能的多様性を指標とした気候フィルタリング効果の検証:

機能的多様性の地理的パターンに対する現生の気候因子のフィルタ効果は限定的で、気候の季節性が種をソーティングし、かつ機能特性を多様化させることが示された。

以上の結果から、以下の点が示唆された。東アジア島嶼の樹木種多様性パターンを生み出す究極的要因として、ハビタット安定性、隔離効果、歴史的分散制限による多様化効果(in situ diversification)が重要である。さらに、地史・気候的な環境変動と種の系統や機能に由来するニッチの関係に基づいた、種のフィルタリングとソーティングが、現在観察される樹木種多様性の地理的パターンを決定している。


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