| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) B2-30 (Oral presentation)

国内外来種が引き起こす在来種との交雑と遺伝子浸透:松山平野の在来ヤリタナゴと移入アブラボテの事例

*畑 啓生, 松葉成生, 大内塊人, 桑原明大, 吉見翔太郎, 石井麻友, 井上幹生 (愛媛大・理)

愛媛県松山平野において、在来希少種ヤリタナゴと、国内外来種アブラボテとの交雑と、両種の遺伝子浸透の実態を明らかにすることを目的とした。松山平野と周辺他県から採集したタナゴ類について、ミトコンドリアのCytochrome b遺伝子を用いて分子系統樹を構築した結果、松山平野のアブラボテは、福岡県西部の個体群と同一のクレードに含まれ、この地域からの移入起源が示唆された。核のマイクロサテライトマーカーを用いた解析の結果、松山平野では22.5%(40/178個体)の交雑個体が見られた。交雑個体は、側線有孔鱗数と臀鰭分岐軟条数によりヤリタナゴとされた個体の27.2%、アブラボテ型とされた個体の26.9%を占めた。幾何学的形態計測により魚体輪郭を比較した結果、核遺伝子が交雑型の個体は、ヤリタナゴ様からアブラボテ様まで、多様な輪郭を持つことが分かった。松山平野では、河口近くにヤリタナゴが、上流の湧水池近くにアブラボテが多かったが、交雑個体は湧水池から河口付近まで幅広く分布していた。産卵床となる淡水二枚貝はマツカサガイが最も優占していたが、その分布は局所的であった。松山では6から8月にかけて二種の繁殖期が重複しており、この時期に交雑由来の仔魚が多く孵出し、マツカサガイの密度が低い地点ほど交雑が生じる割合が高いことも分かった。ミトコンドリア遺伝子に着目すると、交雑個体のうち66%はヤリタナゴ型、34%はアブラボテ型の遺伝子を持っており、浸透交雑は双方向に進んでいた。今後松山平野在来のヤリタナゴを保護するためには、遺伝子マーカーを用いた調査が必要で、さらにこれ以上アブラボテとの交雑が進まないように早急に純系のヤリタナゴの生息域を確保し保護していかなければならない


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