| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-196 (Poster presentation)

カンコノキ絶対送粉共生系における非共生性ハナホソガの進化

*古川沙央里,川北篤(京大・生態研)

自然界では多くの相利共生系が長い進化的時間スケールで存続している。しかし、共生者から非共生的な種が進化することも常である。相利共生系の進化を理解する上で、非共生的な種の進化要因を明らかにすることは欠かせない。

植物と種子食性の送粉者が互いに強く依存しあった絶対送粉共生系に、コミカンソウ科植物カンコノキ属とハナホソガ属のガ類の関係がある。ハナホソガは、雌花に能動的に授粉後、子房内部に産卵する。孵化した幼虫は果実内で種子を食べて成長するが、一部の種子は食べられずに残るため、植物は種子を残すことができる。

和歌山から沖縄本島にかけて広く分布するカンコノキと、八重山諸島以南に分布する姉妹種、ヒラミカンコノキには、系統的に離れた二種のハナホソガが存在することが知られている。これら二種は排他的な分布をしており、特に琉球列島では近接した島間でも種が異なることも少なくない。一方の種のハナホソガ(以下、正常型)の分布域では、カンコノキの果実は均一に膨らむが、他方の種(以下、いびつ型)の分布域では、いびつに膨らんだ「果実」のみが見られる。いびつな「果実」では、幼虫が一部の果皮を肥大化させ、正常な種子がほぼできない。このため、いびつ型は宿主植物に利益をあまりもたらさない、非共生的な種である可能性が高い。また、いびつ型の近縁種は全て共生者であり、共生性ハナホソガに特徴的な口吻上の毛がいびつ型にも痕跡的に見られることから、いびつ型は共生者から進化した非共生的な種であると考えられる。本研究では正常型を基準として、いびつ型がより寄生的かどうかを、二種の形態や行動、種子生産量などを比較することにより検証する。加えて、ハナホソガが混在する琉球列島において、その分布と遺伝的多様度を調べ、いびつ型の進化的背景を探る。


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